【問】
2010年の12月に、福岡高等裁判所は、九州のある干拓地の潮受け堤防排水門の5年間の開門を命じました。この判決について、菅直人首相は上告(高等裁判所の判決を不服として最高裁判所に裁判を要求すること)を断念しました。この干拓地があるのは何湾ですか。
【答】
諫早(いさはや)湾
諫早湾は1989年より、干拓事業にともなう工事の始まった九州西部(長崎県、佐賀県)にある湾です。(グーグルマップなどで位置を確かめてみてください。)
1997年に堤防が閉じられたのですが、その前から有明海の環境破壊・水質悪化を心配する声があがっていました。干潟には浄化機能があるからです。
現実に赤潮の増加や、タイラギという二枚貝が死滅したり、養殖で有名なノリの色がつかなくなったりといった事例も報告されています。
もちろん、堤防のしめきりだけが原因ではないでしょうが、大きな要因になったことは否めないでしょう。(今回の判決は漁業被害との関連性を認めています。)
いったん始めたら最後まで進行させてしまう公共事業の失敗例としてとりあげられることもある事例だそうです。
もともとこの計画は、高度経済成長期にうまれたものといわれ、当時は国を挙げて食料の増産をめざしていました。
が、時代が移り、食糧事情も変わりました。しかし事業目的に防災なども付け加えられ、途中地方裁判所による工事の中断命令やその後の再開など紆余曲折を経て、最後まで工事は続けられました。
1997年の潮受け堤防が閉じられていく映像はまさにギロチンのようで、衝撃的だったのを覚えています。
工事をうけおった業者の生計や、実際にその地域に住んでいる漁家、農家の人たちなど、立場が違えば意見や考えも異なって当然です。
実際に、水門開放について漁業関係者からは歓喜の声があがっていますが、打撃を受けるおそれのある農業関係者や長崎県は怒りをあらわにしており、地元での対立も深まっているようです。
ただ、100%の満足は得られないにせよ、それをうまくまとめて、実施や中止などを決定するのが地方自治体や国のはずなのですが、必ずしもそうなっていないのではないか、と首をかしげる事例をかつて私も見聞きしました。
最近は少し空気が変わってきていますね。
環境アセスメントや脱ダム、建設の是非を問う住民投票……民意がとりあげられ、それが行政を動かす、といったことも増えてきました。
もっとも、現政権が掲げた「八ッ場ダム」の建設中止に関しては、若干怪しくなっていますが…
環境の保全や開発などについてはこういった事例を反省材料としつつ、今後の適切な開発にいかしていかないといけません。
一方で自分が正しいと思う判断を冷静に下せるよう、客観的なデータや情報を自らも集めていく姿勢が求められています。
今回の件では、巨額の税金を投入して事業を推し進め、「環境には影響ない」という学者の論を用い、豊かな自然と漁民の生活をこわしてしまい、地元を二分する対立まで生み出した国と県の責任は重いように思います。
(五日市教室A)
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