カボチャが嫌いだ。
それは、カボチャのせいではない。
方言を研究していた大学三年生の夏。
方言研究会でとある土地へ調査に出向いた。
お寺に頼んでそこを宿舎とし、先生や先輩、仲間と寝食をともにしながら数日間、調査に歩いた。
田舎での方言の調査は、健脚でないともたない。
まだ車など個人個人で持っていない頃の話である。
当然、調査は徒歩でかせぐ。
地図を見て集落ごとに手分けして調査に出向くのだが、やはり地の言葉を収集するのが目的だから、色々と制約があるわけで、
① 60歳以上
② 地元生まれで外住歴がない
③ はっきりしゃべれる
人を探す。が、家がたったの2軒しかないような小さい集落もあるわけで、そうそうぴったりの人がいるわけはない。
①はまだよいとして、②は戦争で外地などへ出征されていることがほとんどなので、男性はなかなか厳しい。
女性は結婚で他の村から来られているケースも多い。
「…と、こんな人、近くにおられませんか?」
「わしじゃ!」
というピンポイントで発見の喜びもたまにはありはしたが。
で、大学三年の話にもどる。その、とある地の名産品はカボチャであった。
大学から方言の調査に来たというと、泊めてもらっている寺のご子息が同じ大学だったこともあり、歓迎しきりであった。
調査にも好意的で、非常にありがたかった。(島の調査はよそ者に排他的で、別の厳しさがあるのです…)お茶もいただけたし。
さて、その土地では来客にカボチャを出すのであった。
最初はおいしいですね、と出されたカボチャのブロックを素直に喜びながら食べていた。
が、調査が二軒め、三軒め、四軒め…となっていくと、どの家でもカボチャを出してくれるのには参った。
目を輝かせて、どうぞ!とばかりに勧められると断れないでしょう。
で、どこの家のカボチャの切り身もでかい。
田舎サイズなのか。
…食べずばなるまい。
四軒めまでは食べて、五軒めからは食べない…なんてことはできない。
後半はひきつりながら、がんばって食べました。
調査は調査で遂行しなければならないから、色々と大変でした。
だって、話の接ぎ穂がとぎれると、「まあ食べろ」となるんだもん。
ご存知のように、カボチャは結構腹にたまる。
おなかをカボチャでパンパンにして(たぶん胃カメラでとると黄色かったに違いない)、寺に帰った。
他の仲間に聞くと、やはりカボチャの洗礼を受けたとのこと。しかも!
…その日の食事のおかずもカボチャでした(笑)。
というわけで、調査の日程中、カボチャを食べまくった。
おそらくカボチャが大好物で三度の飯より好きだとという人でもここまでは食べないだろう。
カボチャは一生分食べたので、もういいです、というわけなのです。
そこで、カボチャは栽培しません。
代わりに今年はトウガンを育ててます。
(五日市教室A)